ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第百三十七話:「目黒の秋刀魚・味覚の秋」
2022/09/09
最終更新:2026-07-29
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名作落語に、殿様が目黒での鷹狩の帰途、空腹を感じ近くの茶屋に立ち寄り、 焼きたての秋刀魚を食べ、その美味が忘れられず、後日家臣に所望したところ、 房州から生きのいい秋刀魚を取り寄せ、 頭を切り落とし蒸して小骨を抜き脂も抜いたものを出したところ、極めて不味く、 「房州はいかん。さんまは目黒に限る。」と言う話があります。 確かに、昔は目黒川河口まで海が迫っていたので新鮮とは言え、産地の違いが味を決めたのではなく、 当時は下魚とされた秋刀魚は幕府要人の口に登ることなく、ましてや城の料理人には、 農漁民や職人たちの食べ方をご存じではなかったのも頷けます。 この話史家によると、裏付けもあるようで、三代将軍家光は、今も東横線の学芸大駅東に 「鷹番町」と、水飲み場の碑文谷公園の「弁天池」が現存するように、 当時の鷹狩名所の目黒によく出向き、立ち寄った茶屋坂の「彦四郎爺の茶屋」があったそうです。 (広重の「名所江戸百景の茶屋」の題材だった)元来は庶民人気の下魚だったので、 江戸時代は季語になっておらず、 名句も明治以降の俳人の作に限られるようです。 夕空の土星に秋刀魚焼く匂ひ 川端茅舎 秋刀魚焼く煙の中の妻を見に 山口誓子 遠方の雲に暑を置き青さんま 飯田龍太 秋刀魚は黒潮の周辺で生まれて、餌を求めて北上し、夏の間千島海流の色丹島沖に群がり、 冷たい海水の中でたっぷりとプランクトンを食べて脂肪をつけ、やがて親潮の動きに沿って、 初秋から南下を始め、十月ごろには房総半島沖から三浦半島沖に、次いで紀州沖に至る、 文字通りの回遊魚です。栄養豊富で、必須アミノ酸全種を含む良質たんぱく質と、カルシウム、 鉄分も豊富で、DHAやEPAも多量に含まれていて、中性脂肪の低下や血栓ができるのを 防ぐ作用もあります。美味い秋刀魚の見分け方は、口先が黄色く、黒目周辺が透明で、 青黒い背が艶やかで張りがあり、 腹が銀白色で張りがあればベストだそうです。塩焼きにして、柚子、酢橘、カボスなどを混ぜた ポン酢醤油、大根おろしを添えて食べるのが最高でしょう。 秋刀魚食ふ月夜の柚子を捥いできて 加藤楸邨 しみじみと秋刀魚は無事の味すなり 水野吐紫 秋刀魚けぶらせをりショパン聞いてをり 結城昌治 風の日は風吹きすさぶ秋刀魚の値 石田波郷 |

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