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創造力あふれる基礎科学技術発展には「シーチェンジ」が必須

2021/11/13
最終更新:2026-07-29
21世紀の世界が1世紀間に1回も経験しないだろう未曽有の疫病に
見舞われたことで、様々な日本の科学技術が世界の潮流に
半世紀近くも遅れてしまっていることが、あぶりだされましたが
短期間で解消できる妙手が簡単に生まれるほど世界は甘くありません。
 
第二次世界大戦勝利後のアメリカには1950年代から70年代の豊かさに
酔い続ける国民を、冷ややかに批判していた裕福な西海岸の
若い有識者が多数存在しました。
後に、彼らは繁栄を続けた基幹産業の凋落や、ベトナム戦争介入で
低迷が始まったアメリカ経済の復活、再生の中心的な存在となりましたが
その原動力は旧態を根底からひっくり返す変革の*「シーチェンジ」。
*シーチェンジ(sea-change)
シェークスピアの戯曲「テンペスト」から連想した若者言葉
 
彼らは西海岸のシリコーン・バレーで先端基礎科学技術、応用科学技術を
駆使するマイクロ・エレクトロニクス分野で創造力あふれる
ベンチャー企業を創設。
型破りな、その「シーチェンジ」魂が半世紀後の今日に受け継がれ、アメリカが
「世界中の富が集中する一人勝ち経済」を形成した原動力となりました。
 
「シーチェンジ」の起源は東海岸の若い学者や学生たちの合言葉でしたが、
思うようにはいきませんでした。
わずか200年くらいとはいえ、国家体制は建国以来の伝統で生き続けてきた
保守勢力の殻に守られており、簡単には崩せません。
連邦政府から4,000㌔も離れた地理のサンフランシスコ中心だからこそ
可能だったといえましょう。
 
世界大戦終戦直後の70年くらい前には日本にも「シーチェンジ」が起こりました。
大企業崇拝、政経官の権威主義、著名校学歴の優先、年功序列、
個性を嫌う教育制度、などなどで硬直化した日本の保守国家体制を崩すのは
容易ではありませんが、世界大戦に敗戦した日本を再生させ、
世界のトップに並ぶ経済力を築き上げたのは、
一時的にせよ、当時の若者が「シーチェンジ」を実現できたからでしょう。
 
世界大戦後は、戦中戦後の苦しみを味わった青少年が日本を支えることに
なりましたが、根幹となる軍需産業が壊滅しても、科学技術ソフトを
受け継いでいる人材の多くが生き残りました。
また、先端基礎科学技術の発達に障害となっていた教育制度が破壊されたことで
短期間ではありましたが、自由で個性的な発想が可能な環境で
創造力豊かな人材が多数輩出し、先輩と共に復興、発展の
原動力となりました。
国家が破壊され、ゼロから出発できたことが「シーチェンジ」を
可能にしたのです。
 
教育制度が戦前同様に回復し、軍需が皆無になってから
出生した、いわゆる戦後世代の人材は平和を謳歌し、朝鮮戦争などを機に
隆盛を極めた日本経済の中心力となりましたが
戦後の復興を担った世代から受け継いだ様々な遺産をベースに
発展させたものがほとんどでした。
 
平均点以上がとれる均等な人材を育てる旧態の教育制度が戻れば
先端科学技術の基礎研究に必須な独創的、個性的な人材は育ちません。
 
全ての分野をカバーする日本の科学技術関連予算は、毎年ほぼ同額の5兆円/年です。
GDP比で、この予算が先進国と肩を並べてはいても、年間経費が主体であり、
科学技術振興関連予算に限れば、全ての分野を含んでも約1.5兆円。
「基礎研究力強化を中心とした研究力の向上と 世界最高水準の研究拠点の形成」
物々しく名付けられた予算はわずか3, 115億円(2021年度予定)
これでは先端技術開発を担える優秀な人材の海外流出が続き、空洞化するのが
当然でしょう。
 
半世紀も先端技術開発が遅れてしまった日本は他の先進国と事情が異なります。
信頼できる数字ではありませんが28兆円/年を投じているといわれる
中国と同様に、追いつき、追い越せが必要な日本は、他国よりはるかに巨額を
投じる必要があります。
 
COVID-19の蔓延で国家資産は枯渇寸前ですが、リターンが期待できる
投資ならば、他の無駄な歳出を切り詰めれば、まだできるはず。
 
COVID-19の推定感染者数が2.5億人を超え、望外の需要が発生した結果とはいえ
ファイザー社、モデルナ社、ビオンテック社の(利益率が法外に高い)
COVID-19ワクチンの売り上げは合計で約12兆円/年。

独創的、他が真似できない新技術ならば、そのくらい大きなリターンがあります。
他人の懐とはいえ、彼らの収入の大きな部分を(慌てて)拠出した日本国の現状を
考えると情けなくなります。
 
日本が世界のトップクラスの先端科学技術を持つようになるには、敗戦国に課された
様々な制約のハンディーがありますが、まずは「シーチェンジ」を
起こせる、柔軟な思想を持つ人材育成が急がれます。
巨費と50年以上は必要な人材育成を先送りすれば、衰退が加速してしまい
取り返しがつかなくなります。
今が「シーチェンジ」のラストチャンスです。

しらす・さぶろう